九州大学大学院医学研究院医療経営学分野 医療経営 Data Archive Library

あいさつ Message

2013年8月に発せられた社会保障制度改革国民会議報告書は,日本の医療を取り巻く環境に鑑みて,1つの急性期病院で全てを完結させる「病院完結型」の従来の医療提供から,地域内において医療を完結させる「地域完結型」の医療提供への大転換の必要性を掲げています.このようなパラダイム・シフトを展開するために,経験と勘に頼った政府介入がなされた場合,医療資源配分の効率性を大きく歪めるおそれがあります.そのため,合理的かつ適正的な意思決定を可能にするための「サイエンスに基づく政策立案」が求められます.

医療経営学はこのようなニーズに応えることができると期待される学問ですが,現在のところ,科学的な意思決定に貢献できる実践的な学問にはなっていません.残念ながら,経営学において発達してきた理論を医療サービスに置き換えただけの学問体系に留まっているといえます.しかし,近年,病床機能報告制度に基づくデータ公開,厚生局届出情報のデータ化,DPC退院患者調査データなど医療経営学に利活用可能なデータ環境の大幅な躍進が認められます.これらのデータを活用することで,経営学における経営理論の医療サービスへの外挿可能性を検証できるフェーズに至りつつあります.ただし,これらデータは研究利用を前提とされていないため,データ間で共通した医療機関IDの欠落やデータベース利用のための加工の必要性などの課題も依然として残されています.

私たちは,このような課題を解決すべく,医療経営Data Archive Libraryを立ち上げることにしました.医療経営Data Archive Libraryとは,利活用可能な医療経営関連データを包括的に収集し,これらを医療機関単位で突合したデータベースを開発・構築し,一般公開するものです.本Libraryが研究者,医療機関従事者,医療政策立案者,医療ビジネスパーソンらによって広く活用され,得られた知見が蓄積・共有され,医療経営学がデータに基づいたサイエンスとしての「計量医療経営学」に昇華されることを期待しています.

九州大学大学院医学研究院医療経営学分野
福田治久